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無力な動物愛護法  「公共の福祉」という文言で殺処分される命の数々

 動物愛護法という法律、日本国民であれば誰に聞いても「知っているよ」と答えるほど法律としての知名度は高いでしょう。

しかしその実態は全く知られていない。どのような形で動物を守っているのか、私たちの暮らしにどう関係しているのかは、行政と法律家のみぞ知るというところでしょう

実は、この動物愛護法、現行の法律では穴がありすぎて肝心の動物を保護できていないのが実情です。

今回は、「公共の福祉」を確保するために、多くの動物の命が奪われているという事実を取り上げてみたいと思います。

なお、法律自体に関する説明は必要最小限にとどめることとします。

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出典 「動物たちのレクイエム」より

 

 動物愛護法を制限する「公共の福祉」とは何か

公共の福祉とは簡単に言えば、私たちの暮らしをより安全で快適なものにするために設けられた憲法の規定です。

個人の利益よりも、公の利益保護を優先しましょうというものです。

その性質ゆえ、この規定はすべての法律と個人の権利に対し一定の制限を加えます。

たとえば、ある建築業者が低層マンションの多い地区に高層の建物を建てようという計画を打ち出したとします。

それによって、住民が「日中、日が当たらなくて困る」「洗濯物が干せない」などという苦情を行政に入れたとしましょう。

ここで公共の福祉が登場します。

公の享受する利益を、この建築行為が著しく妨害すると判断されれば、建築に対して差し止め命令が下ることになります。

仮に、著しい侵害が認められなければ建築は認可されるでしょう。

要約すれば、ある特定の個人の権利利益と、公共の福祉を比較してどちらが守られるべきかという観点から判断を下すことになります。

公共の福祉が個人の利益保護の必要性を上回るとされれば、個人の利益は多少犠牲を払わされる形になるのです。

このように公の権利利益を保護するための法律でもあるのですが、法律を制限するという性質上問題は起きてきます。

そして著しい制限を受けるのが、今回お話しする「動物愛護法」なのです。

 

福祉実現のために多くの動物が殺処分に?動物愛護法のあまさ

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出典 「動物たちのレクイエム」より 収容される子犬たち

 

「公共の福祉」。

これは動物愛護法に対して非常に強い影響を与えます。

動物愛護法が一定の条件では全く機能をしなくなるのです。

先ほど、法律はこの「公共の福祉」規定により一定の制限を課されると説明しました。

公共の福祉という概念が私たちの生活の健康と安全を担保してくれているのは事実でしょう。

しかし、時にその制限は「法律を設けた意義」すらも没却してしまうことがあります。

 

具体的には、どういうことなのか。

動物愛護法では、何人も「正当な理由なく」「みだりに動物の命を奪ってはならない」という規定がされています。

一見問題はないように見えますが、「正当な理由」という文言が曲者です。

実は、この「正当な理由」の中には「公共の福祉実現」というものも含まれるからです。

この条文を解釈すると、「正当な理由」があれば動物の命を奪うのもやむを得ないという読み方になります。

多少極端な言い換えをすれば、私たち人間の「福祉」実現のために、動物の殺処分をしても致し方ないということになります。

「正当な理由」が何にあたるかということは法律解釈の問題ですが、私たちを守るために動物の命を犠牲にしてしまうことには変わりはありません。

そしてここで問題なのは、命と福祉という本来天秤にかけて考えるべきではない事柄を比較衡量してしまい、福祉のほうをとっているという点でしょう。

福祉と個人の法益という比較するのならまだしも、命がかかわっていることにまで「公共の福祉」概念を持ちこんでもよいものでしょうか。

 

愛護法はすでに古法 現行法では命を守れない

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あくまで今の法律は、昭和に制定されて平成に一部改正をされた「古い法律」です。

2012年に一部改正がなされましたが、どの項目にもガイドラインや努力義務という文言が目立ちます。

努力義務とは、「がんばったらそれでよい」という安易な基準。命を扱うには少々軽い法整備でしょう。

こういったことも踏まえて、現行法には以下の2点の問題があると考えられます。

 

法律がすでに古法となっている

現状のペット事情に即していない。昭和の法律ではペットブームの到来は予期していなかったでしょう。法律によりなされる適用の仕方はすでに時代遅れだといえます。

上で述べたような事実、そして各事例ごとへの対処手段を広げるために、新しい立法が必要になってきます。

福祉実現のために命を奪うことを正当化してしまっている

公共の福祉をすべてに優先することで、動物愛護法そのものの意義を没却しているといえるでしょう。

もちろん愛護法の法律がすべて機能していないわけではありません。

しかし、前述のように同法は、実質的機能不全に陥っている点が多々あります。

実効性が担保されていない点不十分な立法だといえます。

福祉実現のために、処分をするのではなく、可能な限り動物の保護を図る方向性へ進むことが望まれます。

 

 動物を処分することにお金を使うのではなく、守ることに財源支出を

 ここで視点を変えて、現在の殺処分に関しての事実を見ていきます。

犬と猫の保健所引き取り件数は毎年約15万匹以上です。

その半数以上の約10万匹が毎年殺処分をされていて、殺処分を行う注射代はおよそ80円ほどです。

10万匹を処分するのに、注射代だけに加え、その他人件費を見積もったとしても1億円は超えない計算になります。

これに対し政府財源からこれら担当行政庁に対して、毎年100億円以上の支出がなされています。

つまり、上記の金額を抜いたほかの金額は、殺処分を行うための「施設そのものの維持費用」、「施設運営にかかる人件費、費用」にまわされています。

 動物の命を守ることにお金が回らず、処分することに対してお金が回ってしまっているという、私たちにとっても非常に不本意な財政支出だといえるでしょう。

 

ではどうするべきなのか? 3つの施策

去勢手術を徹底 

 殺処分される犬と猫のうち、ほぼ8割以上が所有者不明の区分になります。

つまり、内訳ほとんどは捨て猫、捨て犬、もしくは未去勢のために繁殖してしまった雑種でしょう。

ここから見えてくることは、動物の繁殖自体を食い止め、殺処分を未然に防止しなければ殺処分件数は減らないということです。

よく殺処分を減らすために、ペットショップを全廃しようという意見もあるようですが、飼い主やショップからの持ち込み件数は全体の2割に及びません。

(もちろん全体の2割でも救われる命があることに変わりはありませんから同時進行をしていくことが理想的でしょう。)

しかし、本質的な対処をするには、やはり飼育されていない動物たちから施策を練る必要があるでしょう。

繁殖経路を遮断しまうことで、保護される母体となる頭数を減らすという考え方です。

そのうえで、保護された猫と犬には去勢手術を行うことを徹底する。

そうやって各行政区で無作為に発生する猫と犬の繁殖経路を絶っていくのです。

本当に地道な作業となりますが、これを繰り返していく事が現実的な対処法でしょう。

市の職員をすべて動員して、一日にしてこの問題を解決することは不可能ですから、ある程度の年数を見込んで施策を立てる必要があります。

 

 市が各行政区の動物病院と連携  

 加えて、それを実行する際にかかる金額を算定してみましょう。

1匹あたりにかかる去勢手術費用は約2万円が相場です。

保護される頭数が15万匹ですから、約30億円の支出となります。

人件費を入れても、先ほどの施設維持費等を含んだ100億円よりは実効性のあるプランだと思います。

 

去勢手術を施すために、各行政区で動物病院との連携も図る必要があります。

2014年の動物病院の設立件数は、全国で11259件となっています。

西日本地域に行くほど動物病院は減少していく傾向にあり、殺処分件数が最も多いのは高知県です。人口減少地帯は動物に関する管理も未熟な点があり、なかなか市の管理が行き届かない現状があります。

過疎地帯での医師不足も原因の一端でしょう。

まずは地域ごとの連携を強化し、協力をした動物病院に対しては助成金を支払うなどのインセンティブを与えることが重要です。

これにより、病院側の財政状態にもよい影響が与えられますから、医療と殺処分対策が同時に行えることになります。

 

法律を強化 ペットショップ ブリーダーの質向上

すべてのペットショップが悪だと断じるのは行き過ぎでしょう。

しかしペットショップの認可に際しては細心の注意を払った上で認可をするべきです。

これはブリーダーも同様です。

設立の際の資力、ブリーダーが行う繁殖に利用する場所、扱う頭数の制限設定、これらすべての事項に関して法律が完全な定めを備えられているわけではありません。

ペットショップとブリーダーはペット産業を担う中核です。

彼らの扱っている商品が動物という命であるからこそ、彼らに法令順守を徹底させ、厳しい基準を守ってもらうということは、生命倫理の点からも重要なことでしょう。

収益重視での繁殖は行わせない、売れ残ってしまった動物の対処も徹底する必要があります。こういったことの積み重ねが、悪質なショップやブリーダーを市場から追放する効果を持つはずです。

 

 課題山積のペット業界と法整備、命の倫理をもう一度

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出典 「動物たちへのレクイエム」より

 

 動物愛護法は、すでに多くの議論がなされている分野で、いわば「古くて新しい問題」といえるでしょう。

今まで数多くの施策が図られてきたことにより、業界の質向上、殺処分件数の低下は確実に効果を発揮しています。

実際に、平成16年度の殺処分件数は40万件だったのに対し、平成25年では10万件と約四分の一に減少しています。

これも、これまで殺処分を減らすべく活動してきたボランティア団体、行政の方たちの努力のたまものでしょう。

 

しかし問題なのは、法律がこの流れに追いついていないという点です。

行政と各ボランティア団体がいくら努力をしても、肝心の法律が機能しないとなれば問題の本質的解決は難しいでしょう。

福祉の名のもとに捨てられていく多くの命を救うためにも、今後さらなる法整備が望まれるといえるでしょう。

 

最後に 日常から私たちにできること

最後に、私たちにできることをお伝えしたいと思います。

それはソーシャルメディアを通じた、殺処分に関する議論を行うというシンプルな方法。シンプルであっても強力な方法です。

法律というものは、国民の声、「リーガルニーズ」に基づいて改変されていきます。

国民の側に需要があると判断されれば法律改正が自然と提起されるからです。

立法府での動きを活性化させるためにも、私たちが日常からこの問題を見つめるということ自体が、非常に有用な効果を持っているといえるでしょう。

 

今回、記事の中で取り上げた写真は、「動物たちへのレクイエム」という本に出典されていたものです。作者は、児玉小枝さんという方になります。

施設に収容された動物たちの写真を記載しており、施設の現状と処分されていく動物たちの実情を訴えた著作です。

ぜひ皆さんもご覧になってください。